Little AngelPretty devil
           〜ルイヒル年の差パラレル

      “ある意味、健在”
 


ぶんっと振り切られた細いスティックは、
よくよく見れば、
デジタル全盛の今時にはめずらしい、伸縮型アンテナペンで。
子供の指ほどという細さのそんな華奢なものでも、
加速がついたのが当たれば結構痛いし、

 『こんのっ!』

掴み掛かろうとした標的だった相手が
ふっと掻き消えた“???”という呆然状態なところへ
不意打ちで びしりっと打ちすえられては堪らない。

 「ぎゃあっ!!」

何が起きたか判らないという“不安”も加味され、
ただ叩かれただけな痛み以上の恐怖が襲うため、
実質は大したそれでもなかったはずが、
大仰な悲鳴と共に、飛び上がって後ずさりをした姿は何とも滑稽。
これこれこういうというコトの流れを見ていた者であれ、
あんまり同情は出来なかったかもしれない。
だって、

 “ほんの先程まで、小学生たちを相手に、
  それは居丈高に場所を空けろと脅しすかしてた奴ではな。”

レザーのジャケットに、サイケな柄のトレーナー。
ダメージジーンズにはじゃらじゃらと鎖を提げ、
茶色い髪をスプレーでピンピンに立てての、
鼻や口の端などにリングピアスという。
何も知らない小学生にはいかにも恐ろしげな風体の、
高校生くらいか、
がりがりに痩せてはいるが背丈だけはいやに大きな青年たちが。
小学生たちが遊び場としている河川敷の広場へぞろぞろと現れて、
転がって来たボールを明後日の方向へと足蹴にするわ、
鬼ごっこに駆け回ってた子供の前へ立ち塞がって
があっと大声で脅すわ、
何とも大人げない真似を始めたものだから。

 『……そか。ルイの知り合いでもなきゃ、集会の予定もないか。
  うん、判った。………いいから練習続けてろ。』

泣いて逃げ回る子供が出始めたのへ、
スマホで手短に何やら通話をしていた金髪の坊やが
特に感慨も無さげな素の顔で、土手の上の道から駆け降りてくると、
手近な小石を蹴ったのが始まり。
坊やにしてはナイスコントロールで、
狙ったお兄さんの2つ隣りの的へと当たり、

 『ああ? 何しやがるっ!』

大袈裟にもがらがら声でがなっての掴みかかって来たのへと、
一見怯んだものか、後ずさって見せてから、
だが実はそうやっておいでおいでと誘っただけ。
もう一歩踏み込む格好で飛び込んで来た相手の前から、
鋭いステップで脇へ逸れ、
大ぶりな動作の文字通り脇の下をくぐって背後へ回ると、
懐ろから引っ張り出しつつ、
ぶんっと振り抜いて伸縮を延ばしたアンテナペンで、
小さな背中をしなやかにひねりつつ、
見上げた肩口をばしりっと叩いてやったまでのこと。
特に必死な構えでもなし、
無駄のないほんの数歩だけという動きでもって、
これをこなしたものだから、

 「おお〜っ。」 × @

何だか棘々しい空気となった現場、
今はまだ どうなることかと見守っていた、
周囲に居合わせたり、通りすがりだった大人たちが。
申し合わせてもないのに、ついつい声をそろえて感嘆したほどで。

 「チッ。」
 「何してやがんだよ、おいっ。」

こんなチビに何ビビッてやがんだと、
仲間うちだろ似たような風体の青年たちが寄って来て。
何をからかわれているかと、その程度の把握だったらしく、
手頃な高さにあった格好、
小さな坊やの頭をポンポンと叩き掛かった一人が、

 「うおっ?!」

降ろし掛かった右手を弾かれたように引き戻すと、
左手で慌てて撫でさする。
触れもせぬうち、何か凄まじい衝撃に襲われたからで。

 “静電気ってのは億ボルト単位だからなァ♪”

内心ではウククと悪魔の微笑みを浮かべつつ、
表面的には“どうしたの?”というノリで小首を傾げ、
お兄さんを見上げて“にこおっ”とそれは愛らしく微笑った坊や。
だからこそ嘘寒さを感じたか、
あわわと後ずさりする人の二人目となり果ててしまったのへと、

 「おいおい、いい加減にしろよな。」
 「早いとこ此処開けねぇと、兄貴たちが来ちまうだろが。」

どうやら もっと上の格の誰かに言われて場所を空けに来た、
つまりは彼らも所詮は使いっ走りであるようで。

 “こんなところを占拠して何しようってんだかな。”

野球かサッカーか、それとも喧嘩かな、
いやそれはなかろう今時にと。
今時のツッパリにも大きに縁のある坊や、
そっちの推量がさっぱり立たぬままだが、
どっちにしても好きにさせるつもりは毛頭なくて。

 「ほれ、いい子だから退きな。」
 「今からお兄さんたちが使うんだ。」

肩を捕まえようとした別の手合いに、
ああ充電が間に合わねぇやと、内心で舌打ちすると、
ポッケから取り出したスマホの
非常用スイッチを押し掛かった坊やだったものの、

 「……………ちょおっと待て待てっっ!!!」
 「お。」

少し前から聞こえていた、
ちょっと特長のある金属音を滲ませたイグゾーストノイズが。
その音源ごと姿を見せたと同時、
搭乗者のお声まで加わっての大音響を放って見せて。

 「何だよ、練習してなっつっただろうが。」

非常用云々へは触れぬまま、
ワンタッチボタンにて呼び出した相手へ、
スマホで話しかける坊やなのへ、

 「馬鹿やろ、
  あんなややこしいこと訊かれて
  “はいそうですか”と運ぶもんかい。」

そちらさんも一応はスマホを頬に当てていたけれど、
大丈夫か片手で土手を駆け降りてという
危うい操作なのが恐ろしい。
つまりは、突然バイクでこの場へ乱入して来たお兄さんと、
悠長にも電話を使って会話するという、
よくもまあそういう切り替えを素早く出来るもんだという所業。
あっさりとこなしてしまったところの、
金髪色白、ちょっとした子役みたいに愛らしい風貌した小さな男の子へ、

 「……ちょっと待て。」

子供たちの遊び場で突然の狼藉を始めた連中の何人かが、
ほとんど水はないが一応は川風なのだろう、
冷たい木枯らしに肩でも叩かれたのか、
今になってようやっと、ぶるると背条を震わせ始める。

 「なんだどうした。」
 「何だじゃねぇよ。ありゃあ、賊学の葉柱ルイ、さんだ。」
 「う…?」

ご本人は大学生だが、それでも
今現在、ここいらで幅を利かせているクチの
バイク乗りの殆どは、彼の舎弟ばかりだし。

 「……ああん? 何見てやがんだ?」

すぐ傍らまでを駆けつけた格好、その相手の坊やから、
意味のないアイドリングはいけませんと言われたか、
エンジンを切ったゼファーにまたがったまんまの御仁が。
こっちからの注視に気づいたか、
下から舐め上げるような順番もなかなかに堂に入った所作事にて、
ああん?と凄んで見せたのがまた、
鋭く切れ長の三白眼に、そいだような頬やとがった鼻梁など、
迫力も半端ないほど乗っけた威容に満ちていたものだから、

 「あ…いやあの、な、何でもありません。」

 「何でもなくねぇだろが。
  第一、こんなトコで何おっ始めようってんだ?
  そっちのやつ、○○高の▲▲だろうが。
  もしかしてトメがまた
  しょーもない酒盛りでもやろうって言い出しやがったか?」

バーベキューならニコタマまで行けやってんだ、
思いつきでそこいらで馬鹿騒ぎしやがったそのノリで
公道走ってパクられて。
しかも それを勲章にしてるあほうには、
確かこないだウチのが意見したハズなんだがなという説教を、
果たして最後まで訊いていた者がどれほどいたものか。

 「何だ、やっぱりその程度のアホか。」

あたふたと逃げ出した与太者連中を見送りつつ、
なぁんだと呆れる子悪魔様へ、

 「お前もお前だ。」
 「何だよ。練習してろっつっただろうが。」
 「そうじゃなくて。」

お前が喧嘩吹っかけたの、
セナ坊迎えに来てた進が見てたらしくてな。
この場所も教えてくれたんで、
超特急で来れて
間に合ったんじゃねぇかこのやろがと どやしつければ。

 「うっさいな。
  あんな奴ら俺だけで退散させられてたっつの。」

別にルイが来てくれるの期待してねぇもんと、
相変わらずに余裕綽々な坊やだったれど、

 「………その警視庁のどっかへつながってる
  悪魔の非常ボタンだけは押すなっつったよな。」

どうやってつないだコネなんだか、
どうしても手ごわい相手へは、
それを押せばそこいらを走っているミニパトや白バイなどが反応し、
何だか判らないけれど国賓級の誰かのピンチらしいと、
殺気立っての殺到する仕掛けとなってるようで。

  知ってるってことは、
  発動したのを見たんだな、あんた。(何をした)

相変わらず、
こぉんなおっかない後ろ盾のお兄さんがいても、
そんなものへは頼らない強気の坊やで。

 「こんなとこで油売ってないで、練習だこら。」
 「判っとるわ

喧嘩腰の会話を交わしつつ、だがだが
坊やは当然のようにバイクの後ろへひょいとまたがるわ、
お兄さんは懐から折り畳み式のヘルメットを取り出し、
ほれかぶれと差し出すわで。
鮮やかな呼吸を見せたそのまま、
数分後には再び唸り出したバイクに乗って、
この場からこちらも撤退してったお二人で。
木枯らし吹き始めるこの季節に、さぞや寒かろう疾走ぶりだが、
ぴったりくっついた大きな背中は、
ライダージャケット越しでも十分暖かだったし、
グラウンドもそう遠くはなかったし。
撒き上がった風を置き去りに、彼らこそが木枯らしのように、
颯爽と翔ってゆく彼らを見下ろして、
柿の実みたいなお陽様が、河川敷の茅の茂みを白く照らして笑ってた。






     〜Fine〜  13.11.11.


  *そういや、こちらの子悪魔坊や、
   こういう小道具も使ってたなと思い出しましてね。
   単身でも十分おっかない子悪魔様。
   葉柱さんが来てくれて救われたのは
   間違いなく向こうの不良たちの方だったってことやね。(怖)


めーるふぉーむvv
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